会長挨拶

ALL JAPANで神経病理!〜学際的な神経研究を推進しよう〜

新井 信隆の写真

平成29年6月1日〜3日まで、学術総合センター(一橋講堂、千代田区一ツ橋)において第58回日本神経病理学会総会学術研究会を開催させていただきます。テーマは『ALL JAPANで神経病理!〜学際的な神経研究を推進しよう〜』です。以下に開催趣旨などをご説明申し上げます。関係各位の皆様におかれましては、本研究会に対しまして物心両面でのご指導、ご支援を賜りますよう、衷心よりお願い申し上げます。

最近10年は、社会情勢のみならず、医学・医療・生命科学の分野においても、私どもは、加速度的、革新的に激変する潮流の真っただ中にあります。例えば、

  1. iPS細胞などによる再生医療への挑戦
  2. CRISPER/Casシステムなどによるゲノム編集技術の開発
  3. 次世代シーケンサーや蛋白質量解析機による網羅的解析
  4. 精神神経疾患のバイオマーカー探索や薬物療法の開発への応用
  5. ヒトリサーチリソースや新しいモデル動物を一体的に解析することによる病態解明へのアプローチ
  6. 従来の学問体系の枠を越えた新しい研究課題の創出、介護など生活の質向上を視野に入れたブレインマシンインターフェース研究
  7. 研究成果物の標本のデジタル化と運用の改良

などなど、これまで以上のスピード感のある展開が待っていることは自明です。

20年後の神経研究の“景色”がどうなっているのでしょうか。病理学的研究が醸し出す、顕微鏡レンズの向こうにある “原風景”が消えないことに疑いはありませんが、一方で、様々な研究手法が垣根を越えて一つのゴールを見据えて協力してゆく学際的な研究活動こそが、今後20〜30年の研究スタイルになってくるものと考えています。そのスタイルの中で、本学会は、学際コミュニティーの中で、一丸となってどのような役割を果たすのか? 『ALL JAPANで神経病理!〜学際的な神経研究を推進しよう〜』。本学術研究会を担当させていただく会長が選んだテーマの本意は、ここにあります。

そのため、これまで本学会において発表されてこなかった研究グループへのお誘いはもちろんのこと、新しい研究のための“この指とまれ”のような斬新な企画、また、神経系の形態観察を行っている基礎研究者も含めた神経病理技術の継承・普及のための企画を検討して参りたいと考えております。この点に関しましても、なにとぞ、ご協力賜れば幸甚に存じます。

さて、本学会は、病理医のサブスペシャリティーとして、手術検体・生検検体、病理解剖や法医解剖に由来する検体の神経病理診断を適切に行い得る人材を育成するとともに、それらヒト由来検体を用いて行う、基礎研究とのトランスレーショナルリサーチを推進し、それらの拠点作りを支援してゆく使命があります。また、会員の多くは神経疾患の診療に係る臨床医(神経内科、精神科、脳神経外科、小児神経科など)であり、臨床病理学的検討会などを通して、日頃の診療における新しい治療法や看護・介護のシステム指標作成などに資する研究を推進する役割も重要であると考えています。一方、獣医病理学者の会員も少なからずおられますので、ヒト疾患と、家畜や伴侶動物などの疾患との比較検討など、神経疾患の“種を越えた病態解明”への新しい切り口の研究も推進してゆきます。

このように、本学会は会員構成やリサーチマインド、保有するヒトリサーチリソースなどに、多様性があることが大きな特徴であり、また、強みでもあります。このため、本邦でコアとなる研究施設や検体、人材などをバーチャルに“共有”して研究を進めてゆく戦略が重要であるとの認識から、認定施設審査・専門医制度検討委員会(吉田眞理委員長)を設置し、これまで約50の大学、病院、研究施設などが、認定施設として承認されてきました。文字通り、学会として『ALL JAPAN体制』を構築し始めたところです。また、将来計画委員会(佐々木惇委員長)でも他分野との交流を強める計画を検討し実行に移しているところです。

今後、このような認定施設がコアとなりネットワークなどを構築するなどして、希少疾患を含むリサーチリソースの活用や技術的ノウハウ・ナレッジの共有化などが促進することが期待されます。さらには、神経病理学以外の学際的研究活動とコラボレーションすることにより、結果的に、『ALL JAPANで神経研究!』がさらに飛躍的に発展するものと考えております。

これから、具体的な企画などを立案して参りますので、関係各位の皆様に、ご指導ご鞭撻を賜れば幸いです。重ねてお願い申し上げる次第です。

平成28年5月吉日